アシュタンガヨガのプラクティショナー(実践者)が、ヨガ哲学を学ぶとしたら、まず最初に読む(学ぶ)べきものは「バガヴァッド・ギーター」であると、現在のアシュタンガヨガの総本山マイソールの師であるシャラート先生はおっしゃっています。
そしてそれは、一度読んだだけで「知識を得た!理解した!」と言うようなものではなく、何年もかけて、何度も読み、自分の成長の段階とともにその言葉の持つ意味が「変化」していく「人生のバイブル」のようなものだと。
アシュタンガヨガを一生懸命実践している皆さんが、今後、興味を持って学ぼうとした時に、あまりにその内容が難解で投げ出してしまい、たくさんの恩恵を受けるせっかくのチャンスを逃してしまわないように、オススメの本を使って、この「バガヴァッド・ギーター」を紹介したいと思います。
今回参考にした本は、*上村勝彦さんがサンスクリット原典を訳した「バガヴァッド・ギーター」、そしてそれをさらにわかりやすく解説した「バガヴァッド・ギーターの世界」です。
この方の文章は、とにかく語り口が優しくて、解説もわかりやすいので、小難しい文章が苦手な方にも大変おすすめです。
インドには多くの神がいる
さて、インドの人口の80%を占める宗教は「ヒンドゥー教」です。みなさんはヒンドゥー教のことをどれくらい知ってますか?
ヒンドゥー教は「ヴェーダ」という古い聖典を奉ずるバラモン教が元となってできた宗教です。
インド料理屋さんに行けばお店のインテリアとして飾ってある「シヴァ神」とか「ガネーシャ神」などが有名ですね。正直私はせいぜいそのくらいしか思い浮かばなかったんですが、ヒンドゥー教やインドで信仰されている神様は他にも色々あります。
そして実は、日本人が昔から信仰したり崇めたりしてきた神様は、こういったヒンズー教の神様が元ネタになっているものが多いんです。
- アスラー(バラモン教でいう悪魔)→ 阿修羅(悪魔)
- デーヴァ(最大の神)→ 帝釈天(神々の王)
- ヤマ(地獄の死神)→ 閻魔(地獄の王)
- サラスヴァティ(水の女神、芸術の神)→ 弁財天(七福神の一人)
- マリーチ(インド密教の女神)→ 摩利支天(陽光の神)
- ハーリティ(地母神)→ 鬼子母神(毘沙門天の部下の妻)
そのほか影響を受けている神として
- 毘沙門天(七福神の一人)→ 梵天(ブラフマー)の孫
- 那羅延金剛(金剛力士の一人)→ ヴィシュヌ神がモチーフ
- 大黒天(七福神の一人)、千手観音、十一面観音 → シヴァ神がモチーフ
このように、私たち日本人は、実はヒンドゥ教の神々に囲まれて、そうとは知らずに拝んでいる人がほとんどだという事実が「バガヴァッド・ギーターの世界」に書かれています。
さて、そのヒンドゥ教は、世界に広がる5大宗教の一つです。
その5大宗教とは、「ヒンドゥ教」の他に「ユダヤ教」「キリスト教」「イスラム教」「仏教」ですが、ヒンドゥ教はこの中で一番古い歴史を持つ宗教でもあります。
この年表を見てわかるとおり、ヒンドゥ教の元となるバラモン教が生まれたのが今から遡ること5000年の紀元前3000年なんです。
大まかにいうと、その1000年後にユダヤ教、その1600年後に仏教、その600年後にキリスト教、その500年後にイスラム教が始まったということです。
ヒンドゥ教やインドに根付く「ある思想」は、仏教の教え(*仏陀のオリジナルの言葉)を通じて日本に入り日本の宗教や文化に多大な影響を与えました。</>
その「ある思想」というのは、次のような思想です。
『絶対者(最高神)と思われるものは、姿形なく、目に見えず、すべてのものに遍満し、私たち個々人のうちにもその性質がある。』
じゃあ、先ほど登場したヒンドゥ教の神様たちはなに?!って話なんですけど、これはヒンドゥ教に限らず、こういった神話は自然現象や歴史上の出来事を始め、普通の人には理解できないような事などを、伝承していく過程で生まれたものなんですが、もちろんそれを信じている人はいるわけで、それがいわゆる信仰心というものな訳です。
こういった思想について書かれているのが、インドで最もポピュラーな「バガヴァッド・ギーター」です。
ヒンドゥ教の聖典にもたくさんいろんな種類のものがありますが、「二大叙事詩」と呼ばれる、言うなれば超大作の「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」がとても有名で、そのうちの「マハーバーラタ」、これは全部で18巻あり世界最大級の叙事詩です。
「マハーバーラタ」は、バラタ族という一族の間の大戦争を中心とした話で、その中の第6巻におさめられたある一編が「バガヴァッド・ギーター(神の詩)」です。
先ほど、インド人の間で最もポピュラーだと言いましたが、ユダヤ教やキリスト教には聖書が、イスラム教にはコーラン、仏教には法華経や般若心経があるように、ヒンドゥ教ではバガヴァッド・ギーターを人生のバイブルとしている、ということなのです。
「バガヴァッド・ギーター」が、インド人にとってどんなものか、そして日本人にとっても実は馴染みやすそうなものだということはおわかりいただけたのではないでしょうか。次回は、バガヴァッド・ギーターの大まかな内容や物語の流れについて、見ていきます。