もうかれこれ10年ほど前、私がまだ初心者だった頃のことです。あるアシュタンガヨガの先生が、「アシュタンガヨガは、その独自の呼吸法で体の中に”火”(エネルギー)を起こすので、怒りの感情が出やすくなる」と言いました。
「みんなもそうじゃない?」と聞かれ、同感した方もいらっしゃいましたが「う〜ん、そうかな〜?」と首をかしげる方もおり、さまざまな反応が見受けられました。
その様子を見て先生が「あれ?おかしいな。みんな、ちゃんと練習してるの?」と、笑っていました。
そして、先生が体験したアメリカのヨガスタジオでのピリピリした雰囲気、他の生徒さんや先生同士の険悪な雰囲気、他人に対して、ちょっとしたことで怒りが生じ怒鳴り散らした経験を、おもしろおかしくお話ししてくださいました。
ここまでの話を聞くと、
「アシュタンガヨガってなんのためにするの?」
「怒りっぽくなるんだったらしない方がいいんじゃない?」
「ヨガってそもそも穏やかな心を目指すものでしょう?」
と思うのではないでしょうか。今回は、このアシュタンガヨガが持つ性質についてシェアしたいと思います。
「火(エネルギー)」が自分の意識や感情を強くする
それからしばらくして、たまたま昔のヨガ雑誌を引っ張りだして見ているとこんな記事がありました。
(2006年11月10日発行 Yogini vol.9より)
「そのために必要なこと不要なこと」
アシュタンガヨガの練習、特に太陽礼拝のポーズは、太陽に向かって呼吸をしながら体を動かすことで、体内にたくさんのエネルギーが作り出されます。
エネルギーというのは、自分の意識の方向に流れるという性質があるので、普段から怒りっぽい人だともっと怒りっぽくなるし、物欲やお金に囚われている人はさらにその傾向が強くなります。つまり、アーサナの練習をすると良くも悪くも自分のマインドの通りに物事が運ぶようになるので、どういう意識でいるかがとても大切。その方向性を教えてくれるのが*ヤマとニヤマです。
ただ、このような仕組みは、アーサナの練習を通して体感できることなので、いまの時点で理解できなくて当然。頭でっかちになると良くないので、むしろ考えすぎずにまずは朝起きたら淡々とアーサナの練習をしましょう。
*ヤマとニヤマ・・・ヨガの八支則のうちの最初の2つ。ヤマは「禁戒」でやってはいけないこと、ニヤマは「勧戒」でやったほうがいいこと。
私はここで、腑に落ちました。あの先生の話を聞いたとき「怒りが生じる」ことにそれほど同感できなかった人は、同感できる人に比べて持っている怒りの感情が少ないだけなのだろう、と。要するにこれは、自分の中に作り出されたエネルギーが、怒りという感情に限らず、その時の自分の意識や普段から現れやすい感情をパワーアップさせて表面にあふれさせているということなのです。
なので、別の感情や性質(嫉妬、ケチ、プライドが高い、物欲・・・etc)の方が強ければそちらが表面化しやすくなっているのでしょう。
ネガティブマインドを燃やして浄化する
そういえば、先生はこうもおっしゃっていました。「アシュタンガヨガは、体の中に「火(エネルギー)」をおこして、ネガティブな意識や感情をどんどん燃やして、そして最後には浄化されるシステム。つまり最終的には、ネガティブな感情が生じにくい穏やかな心を持てるようになる。」
ちなみに「浄化」というのは、自分の内面にしっかりと向き合って、散らかった感情を片付けて整理整頓したり、右往左往して迷っている意識を向けるべきところへ向けるという意味です。もちろんマインド面だけでなく、肉体面(血液、筋肉、内臓、など)の浄化も同時に行われます。
ネガティブな性格で、感情の波が大きくて辛い、、、という方も多いと思います。「一体何が自分を苦しめているのかさえわからない」混乱状態に陥ったりするかもしれません。
だけれども、アーサナの実践をしているだけで、自分を苦しめているネガティブマインドを1つ1つ表面化させて、その都度それが自動的に消されていくなら、とってもわかりやすいし、単純というか簡単そうですよね。
長年ヨガの実践を正しく真剣にやっている人を見れば一目瞭然。シンプルで迷いがなく、いつもスッキリして幸福そうですよね。そういう人でも最初からそうではなかったと思いますよ。もちろん、生まれたときから聖人君子のような人も稀にいますが、だいたいがそうではありません。正しく真剣に続けていれば、誰でもそうなれるのです。
普段の意識の持ち方が重要
普段の意識や自分の感情の性質が「その先」を決めるわけだから、気をつけなければいけないな、と思います。どれだけ浄化作業をやっていても、新たにネガティブマインドを生みだしていてはキリがありません。ですから、普段の生活や人間関係、様々な環境を整えていくことも、とても大切です。
そのために、ヨガの八支則には「ヤマ(禁戒)」「ニヤマ(勧戒)」というものがあり、ヨギーはそれを守ろうとするのです。ヨガの実践に本気で取り組むのであれば、必ずアーサナの練習だけではなく、ヨーガ・スートラというヨガの経典を読みなさい、と言われます。何も考えずにアーサナの実践だけやっているのと、ヨガというものの本質を知り、正しい知識と意識を持ちながら実践を続けるのとは、雲泥の差です。
「ヨーガ・スートラ」というのは、賢者パタンジャリが説いたヨガ思想を弟子たちがまとめてできた経典です。
そのヨーガ・スートラを翻訳・解説したさまざまな文献がありますが、ヨガの実践をしていない人、やっていても経験が浅い人がそれらを読解することはなかなか難しいと思います。ですが知ろうとすることが大切で、意味はわからなくてもとりあえずスートラに触れてみるということはしたほうがいいと思います。今はまだ理解できなくても、実践を続けていれば必ずそれを理解できる段階に辿り着くので、その時に「ああ、これはこういう意味だったんだ」と気づいたり、深く学ぶことができると思います。
もちろん、知識だけではダメです。アーサナの実践を日々行うことが必須条件ですよ^^
「インテグラル・ヨーガ」という文献がとてもわかりやすくて良かったのでオススメです。